Star Citizen 技術討論 2025
CTO Benoit Beausejour による開発の舞台裏
概要
この3時間の技術討論は、Star CitizenのCTO Benoit Beausejour(Ben)とJaredが、2025年の開発変化について詳しく語った記録的な内容です。「Year of Playability(プレイアビリティの年)」として位置付けられた今年の取り組みと課題について、驚くほど率直に議論しています。
Part 1: 組織改革と「Year of Playability」
開発方針の根本的転換
🔴 従来(10年間)
- 新機能追加を最重視
- 「次の機能を出さなければ」の思考
- 基盤修正の機会を逃す
🟢 2025年以降
- 既存システムの安定化・修正
- 長年の課題に本格的に取り組む
- Squadron 42チームに注力させる
革新的な開発手法
Hero Squads(ヒーロー分隊)
特定システム(Transit、Freight Elevatorなど)に専用チームを配置。QA主導で優先度を決定し、プレイヤーへの影響を最重視。
専門特化 QA主導Embedded Green Light
各開発チームにQAテスターを配置。コード提出前にQAの承認が必要な「信用できない開発者」システム。
品質重視 文化変革Hygiene Initiatives
ゲームエンジンのエラーログを大幅削減。意味のあるエラーのみを表示し、各チーム専用のエラーは必ず修正。
エラー削減 責任明確化劇的な成果
Stability Score システム
全ビルドに対して自動算出される安定性指標。7段階評価で現在の品質を数値化。
- 現在の4.30: 「Optimal-Excellent」レベル
- 過去の3.23: 「Unstable」レベル
- 悪名高い3.18: 「Critically Unstable」
Part 2: Server Meshing の現状と未来
Static Server Meshing の成果
- 構成: 10ゲームサーバーで1シャードを構成
- 最適化: 毎パッチで領域配置を調整
- 負荷要因: プレイヤー数だけでなく、AI・船舶数も大きく影響
他のゲームとの技術的差異
従来の手法
- グリッド方式での分割
- サーバー間の直接通信
- プレイヤーが実際にサーバーを移動
Star Citizenの革新
- 3D空間分割: ツリー構造による柔軟な分割
- Hybridシステム: プレイヤーは個別サーバーに直接接続しない
- シームレス移行: 弾丸の軌道すら継続
Dynamic Server Meshing への道
- 任意のStreaming Groupへのサーバー割り当て
- インスタンシング技術との統合
- 段階的な技術プレビューでの導入
Part 3: 主要な技術的課題
Freight Elevators(貨物エレベーター)
主な問題と解決策
- 障害物検知エラー: メドペンのような小さなアイテムでもエレベーター全体が停止
- 境界設定ミス: アイテムがプラットフォームに埋まって見えなくなる
- 接続切断: キオスクとプラットフォームが互いを見失う
- Self-healing機能: システムが自動的に問題を検知・修復
Transit → Transport システム
Benの発言: “Transit systemは我々の存在の悩みの種”
現在のTransit System
- 「受け入れ可能な状態」
- Self-healing で持たせている
- サーバークラッシュ時の宇宙放出バグ
新しいTransport System
- 完全な再構築
- New Babage Habsで内部テスト済み
- 技術プレビュー予定
Entity Cleanup システム
- Density Classes: 地域別アイテム密度制御
- 放置車両タイマー: 2時間後に自動削除
- Pink Slip System: 物理衝突時の強制削除(ピンク表示後削除)
NPC Spawn Management
Benの発言: “これは完全に私をイラつかせる問題の一つ”
現在の問題
- ミッションモジュールの二重初期化バグ
- 無限スポーン設定のデザイナーミス
- 複雑な症状、様々な原因
Population Manager による解決
“5人必要。現在5人いる?問題なし” vs “5人必要。5人スポーンする”
Beacon System の復活
- Entity Cluster Service: 星系間ビーコン対応
- 医療ビーコン: 再有効化予定
- First Responder支援: 他人を助けるためだけのゲームプレイ
Part 4: Long-Term Persistence の根本的問題
現在のシステムの致命的欠陥
Entitlement System(正常動作)
- Webプラットフォーム購入品は完全に安全
- 毎回ログイン時にエンタイトルメントを確認
- このシステムに問題は一切ない
LTP System(問題だらけ)
設計上の根本問題
- ストレージ時のみLTPレコード作成
- アンストレージ時にLTPレコード削除
- クレーム忘れで完全消失
- コンポーネント誤記録
具体例: Wikelo Polaris
- 正常: Polarisとして記録
- バグ: クーラー部品として記録
- 結果: 船の代わりにクーラーを取得
- 修正: 4.21で一時改善も4.30で再発
Checkout/Stow システムの複雑性
Step 1: 船をパッドに呼び出し
LTPから削除 → ゲーム世界に物理的に存在 → リアルタイム更新開始
Step 2: 飛行・使用
LTPには存在しない状態。盗難・海賊行為が可能。アイテム複製を防ぐため。
Step 3: ストレージまたはクレーム
ハンガーにストレージ → LTPレコード再作成
破壊されたらクレーム → LTPレコード再作成
革命的な新解決策
統合Entitlementシステム
- 取得時点で即座にEntitlementレコード作成
- Webプラットフォームシステムをゲーム内獲得品にも適用
- LTPの複雑さを完全に回避
- パッチ間での完全な持続性保証
実装状況
- オンラインチームが最優先で開発中
- バックエンドシステムのため慎重にテスト
- 暫定的軽減策も検討中(4.21で一時的効果確認済み)
Tech Preview システムの展開
現在: Vulkan最適化 + ミッションツール
8-9ヶ月分のグラフィック変更。Ali Brownの待望のVulkan最適化。Mission 2.0の前提となるStar Script。
次回: Engineering Gameplay
年末前リリースを切望(保証なし)。5-6年間開発、複数回のCitizen Conで紹介済み。
その後: Transport System
完全に新しいStarport Systemの公開テスト。
CitizenCon Direct 2025 について
- 日程: 2025年10月11日
- 焦点: Star Citizen開発チームと次年度計画のみ
- 方針: Squadron 42チームは2026年リリースに集中
- 規模: 従来より小規模で集中的な内容
総括: 透明性と変革の意志
この3時間の技術討論は、Star Citizenの開発が根本的な転換点にあることを明確に示しています。10年間続けてきた「新機能優先」から「品質・安定性優先」への転換は、単なる方針変更ではなく、開発文化そのものの変革です。
この討論の価値
- 前例のない透明性: 技術的失敗や限界を隠さずに公開
- 具体的な解決策: 各問題に対する明確な改善計画
- 開発者の人間性: “We don’t trust devs”のような率直な発言
- 長期的視点: 根本的な問題解決への取り組み
最も印象的なのは、開発チームが自分たちの失敗を恥じるのではなく、それらを学習と改善の機会として捉えていることです。Long-Term Persistenceの問題に対する完全に新しいソリューションの開発は、その最たる例です。
技術的革新のハイライト
Self-Healing システム
複雑なストリーミングシステムが引き起こす問題に対する革新的アプローチ。システムが自動的に異常を検知し、修復を試行する。
3D Server Meshing
従来のグリッド方式を超越した、ツリー構造による3次元空間分割。弾丸の軌道すら継続するシームレスな体験。
Entity Cluster Service
星系間でのゲームプレイ要素(ビーコン、interdictionなど)を可能にする新サービス。Server Meshingの恩恵を最大化。
開発文化の変革
旧文化: “Move Fast, Break Things”
- 高速開発、後で修正
- 開発者を信頼したコード提出
- 機能追加が最優先
- エラーは無視して進行
新文化: “Quality First, Sustainable Development”
- 提出前の徹底的検証
- “We don’t trust devs” – QA必須承認
- 既存システムの安定化優先
- エラーの責任明確化と即修正
コミュニティへのメッセージ
開発チームからの率直な言葉
“我々は時として、本来なら標準であるべき機能を発明したかのように宣伝してしまうことがある。Server RecoveryやServer Meshingなどは、もし違う優先順位で開発していれば、もっと早く実装されていたはずの機能だ。” – Jared Huckaby
“このゲームには物をストアする方法が100万通りもある。LTPシステムは非常に脆弱で、記録が正しく更新されないケースが多数存在する。” – Benoit Beausejour
プレイヤーへの実用的アドバイス
アイテム消失を防ぐために
- 必ずハンガーに着陸してストレージ
- 破壊された船は即座にクレーム(放置厳禁)
- 「後でクレームしよう」は危険(パッチで消失リスク)
- 重要な船は複数バックアップを検討
テスト参加の重要性
開発チームは段階的なリリースサイクルにより、プレイヤーベースが分散してしまう課題を認識しています。
- Live: 安定したゲーム体験
- PTU: 次回パッチのテスト
- Tech Preview: 実験的機能のテスト
今後の展望
2025年残り期間
- Engineering Gameplay Tech Preview(年末目標)
- Long-Term Persistence新システムの段階的導入
- Transport System(旧Transit)の置き換え開始
- 医療ビーコンシステムの復活
2026年以降
- Squadron 42リリース(2026年目標)
- Dynamic Server Meshingの完全実装
- より高い同時接続数への対応
- Star Citizen 1.0への道筋明確化
この討論の歴史的意義
この3時間の技術討論は、単なる開発状況報告を超えた歴史的文書です。大規模ゲーム開発の現実、技術的負債との向き合い方、そして何より開発チームの誠実性と透明性を示す貴重な記録となっています。
なぜこれが重要なのか
- 前例のない透明性: 通常は内部でのみ語られる技術的課題を公開
- 失敗からの学習: 問題を隠さず、改善プロセスを共有
- 長期的視点: 短期的な機能追加より根本的改善を選択
- コミュニティとの信頼構築: 率直な対話による関係性の深化
Star Citizenというプロジェクトが、単なるゲーム開発を超えた「オープン開発」という新しい形態の実験であることを、改めて印象づける内容でした。技術的な詳細の向こうに、より良いゲーム体験を追求する開発者たちの情熱と責任感が感じられます。
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